栽培がとても難しいと言われていた希少青大豆の”高級キヨミドリ大豆”を思い切って勇気を出し栽培を始め、「嘉麻ひすい大豆」として嘉麻市の特産品にまで登りつめました。

生枝豆・豆腐、更に納豆と、たった3年で3つもの特産品を誕生させ、6次産業化を早期に実現させた嘉麻市の市民会社「株式会社かま」。
その市民会社で代表取締役社長を勤める有田栄公氏へ、今回の取り組みについてインタビューを行いました。

避けられない「地元消滅」の危機

──九州は福岡県、その中心に位置するのが嘉麻市(かまし)ですね。嘉麻市は遠賀川の源流がある地で、川と山々に囲まれた、とても緑ゆたかな地域に感じます。

株式会社かま 代表取締役 有田栄公氏(以下、有田):

そうなんです。田んぼの広がる、のどかでとても暮らしやすい街だと感じています。
米・肉・野菜など新鮮でとても美味しく、安心して暮らしていける人口37,000人の田舎です。

ですが、嘉麻市の人口は年々減少傾向にあり、現在全国で約900箇所存在すると言われている“消滅可能性都市”の1つに挙げられているんです。

──“消滅可能性都市”とは?

有田:

人口減少に歯止めが掛からず、10年・20年後に就労人口が足りなくなり、自然消滅する市や町のことを指します。

──消滅と聞くと、とても穏やかには感じられませんね。

地元農家の厳しい現実

有田:

実は今に始まったわけではなく、私が知っている30年ほど前からそう言われていました。
自然消滅の危機は徐々に少しずつゆっくりと襲って来るものですから、私も含めて「茹でガエル」状態だったのは否めません

例を一つ挙げれば、何十代と続いてきた嘉麻市で農家を営むほとんどの方は、自身の事業の担い手不足に直面しています。
農作物を作ったとしても他の同種の農作物との差別化ができずに、作っても作っても安価でしか売れないのです。

高齢の農家さんですから、スマートフォンも持っていなかったり、持っていたとしても操作に不慣れです。
もちろんSNSなどのサービスは使いこなせません。
ECサイトやSNSでの販売など、現代に合った販路開拓も知識がないため手を出せずにいます。

──若手の後継者がいれば、WEBでの販路開拓も比較的容易に始めることができるでしょうが…高齢の農家さんだけだとそうした運用が難しいところもありますよね。

有田:

物を作る技術はあるのに、それを皆に知ってもらえる方法がない。若い人がどんどん減っている地域に住む生産者の現実です。

土の作り方、雨や水のタイミングなど、農家さんが持っている素晴らしい能力が次に繋げられず、嘉麻から大きな財産が失われようとしています。

生産者と協力し、新しい特産物を

有田:

そうした生産者からのリアルな声を聞き、私たちとして何ができるのかを考えました。

幼い頃は農家さんが祭りや地元行事を支えてくれたおかげで、私たちは楽しく子供時代を過ごせました。今度は私たちが恩返しする番だと思っています。

嘉麻市でできたものを全国・世界に届ける方法、そして、全国・世界に通用する価値のある特産物を作り出す方法…。
農家さんが誇りと自信を持って、日々楽しく農作業ができるような事を、雲をつかむような事を、私たちが今ここでやるべきではないか。

そうした調査を進めているところで、地元の3代と5代目の若手30代の老舗豆腐店の二人が相談に来ました。

「地元でとれた大豆で豆腐を作りたい。しかも、希少価値の高い青大豆で”キヨミドリ”という品種がある。この大豆で豆腐を作る事はとても難しいが、緑色の豆腐をどうしても作りたい!」と。

──その希少価値の高い青大豆が「嘉麻ひすい大豆」ですか?

有田:

そうです。キヨミドリ品種の青大豆は、通常の大豆と比べて種の数も少ない上に種代も高くて。

しかも栽培実績も全国にほとんど例がないくらいの件数で、希少価値はあるけど栽培が難しいせいでわざわざ手を出す農家さんがいなかったんです。

──栽培がとても難しいのでは採算が取れない可能性がありますよね。 皆さんが敬遠される気持ちは分かります。

有田:

でも地元の農家さんはそこで勇気を出してくれたんです。

「地域のためになるなら」「若い者の頼みであればやってみるか」って。

希少価値がある上に、みんなが作っていない高級大豆。これを作ることができたら嘉麻市の特産品として通用するかもしれない。
そんな私たちの夢に、農家さんが手を組んでくれたんです。

ゼロからの挑戦。農家さんの大きな勇気が現在に繋がる

有田:

でも、作り方が全然分からない。
農家さんは元々はイチゴやお米・麦・大豆を主にを作っている方で、キヨミドリ品種の大豆の栽培に関しては知識ゼロだと。

大豆の種もどこから仕入れるのかさえ分からない。探しても探しても売っていない。
困っていると、日本の大豆博士と言われている方に辿り着き、種を取り扱っている日本で唯一の種屋さんを教えてもらえました。

農業試験場や県の農業センターへも、栽培方法を教えてもらいに何度も農家さんが足を運んだそうです。

栽培が難しいと言われる作物、栽培は失敗に終わってお金だけを捨てることになるかもしれない。
それでも勇気をもって協力してくれた農家さんの存在は、私たち嘉麻市民としてとても勇気づけられました

──本当にそうだと思います。 そうした生産者さんの勇気をきっかけに今のような特産品が生まれることになったんですね。

有田:

多くの方からの教えで、まずは水はけの良い田んぼを探すところから始めて…。

そして2020年の夏に作付けへ。
当初は台風で作付けができずに毎日肝を冷やしましたが。

それが「嘉麻ひすい大豆」の始まりですね。

──ついに作付けしたんですね!その後の経過はどうだったんでしょうか。

作って初めて知る、生き物を育てる難しさ

有田:

合間、台風や長雨などに見舞われましたが、農家さんが丁寧に育ててくれたおかげで栽培は大成功しました。

初年の1年目は十分な収穫量とはなりませんでしたが、嘉麻市の産直サイト「かまチョク」を開設して予約販売を行い、大きな段ボール箱500箱分の根付き枝付き生枝豆を全国へ出荷することができました。

収穫期間中には生枝豆の収穫体験を開催し、自分の手で収穫して持ち帰れるというイベントも行いました。

地元の方はもちろん、郊外からわざわざ興味を持って来ていただきました。

──初年からイベントも行って集客があったんですね。 確かに、初年からYouTubeクリエイターとコラボ動画も出されていましたよね。 WEBでも精力的に活動されていたことがよくわかります。

有田:

2年目からは前年の知識をフルに活かして本格始動という形で1000箱の出荷を行いました。

ただ、3年目は出荷を見送ることになりました。
どうしても本来の豊潤な風味と甘味が足りず、収穫予定直前は毎日10日間味見を繰り返しましたが、この味ではお客様ががっかりさせてしまうので出荷見送りを決断しました。

全てのお客様に事情を説明し、来年の収穫に持ち越していただきました。

──2年目が上手くいっていても3年目は調子が悪いという事もあるんですね。

有田:

そうなんです。
収穫時期までにかまチョクでご予約された方々が沢山いらっしゃり、収穫ボランティア150名も募って収穫日程まで決めた後での収穫中止。苦渋の決断でした。

その年その年で土壌や気候、種そのものも条件が違う。
生き物を育てるという事はこういう事なのだなとつくづく感じました
ですが、だからこそ農業というものは深く、逆に面白いものだと気づかされました

皆さんに必ず喜んでいただけるよう、今年も栽培成功に向けて精一杯取り組んでいこうと思っています。

嘉麻ひすい大豆を加工品へ

──栽培時期としてオフシーズンの期間中は、嘉麻ひすい大豆の活動としては何か行っているのですか?

有田:

嘉麻ひすい大豆のプロジェクトは、私たち株式会社かまと農家さん、そして地元のお豆腐屋さんで立ち上げたもので、高級大豆でできた高級豆腐を作りたいという次のステップが既にありました。

ですので、初年の冬に採れた嘉麻ひすい大豆を乾燥させ、翌年の春頃に豆腐として試作してみようという計画は当初からありました。

──翌年の春にはもう新たな商品が開発されていたのですね。お豆腐を作る知見がある豆腐店の方との新たな商品開発…取り組みはどういう風に進んだのですか?

有田:

お豆腐屋さんが試作を何度も何度も繰り返したそうです。

嘉麻ひすい大豆を栽培することも難しいのは間違いなかったのですが、何よりもその嘉麻ひすい大豆という希少青大豆を豆腐に加工する技術が更に難しいものだったそうです。

嘉麻ひすい大豆と同じキヨミドリを原料とした豆腐を作れるのは、全国の豆腐品評会などで入賞をされるほどの技術を持った豆腐店だけだったらしく、国内でも1・2か所しかないと聞いています。

──豆腐に加工することも更に高度な技術を求められたのですね。しかし、みなさんの努力が実って開発は成功したということですよね。

有田:

はい。絶対においしい豆腐を作る!という執念で。
若手30代のお豆腐屋さん二人の奮闘です。

やっと「これだ!」という味にたどり着いた時は、みんなで泣いて抱き合って喜びました
これでやっと美味しい豆腐をみなさんに食べてもらえるという喜びでいっぱいで。

嘉麻ひすい本来の綺麗な緑色をまとった美味しい豆腐は、「嘉麻ひすいおぼろ豆腐」として商品化し、かまチョクでも販売を始めました。
原料の大豆も限りがあるので、週70丁限定。100年続く老舗の森政食品で製造しています。

──週70丁はとても貴重ですね。

有田:

原料となる嘉麻ひすい大豆が高額なので、通常の豆腐の約10倍、1丁400円で販売しています。
それでもお豆腐屋さんの店頭を始め、地元スーパーやかまチョクでよく売れています。

また、嘉麻ひすい おぼろ豆腐はその後の令和4年に開催された「第6回全国豆腐品評会 寄席/おぼろ豆腐部門」で5位を受賞しています。

──全国豆腐品評会!…ということは、もう美味しさは間違いないですよね。ちなみに、嘉麻ひすいおぼろ豆腐の美味しいおすすめの食べ方ってあるんでしょうか。

有田:

一番のおすすめはシンプルに塩で食べることです。
嘉麻ひすい大豆本来の甘味が引き立って、これがまた美味しいんです。

ぜひ一度手に取って試してみてほしいです。

次なる加工品…宮城の納豆製造業者との出会い

──そして納豆まで商品化されていますよね。販売開始してから、とても売れ行きが好調だと聞いています。その辺のお話もお伺いしたいのですが。

有田:

豆腐を商品化し、次なる加工品として、納豆を作りたいと考えていました。

私たちは納豆を作る技術はないので、納豆の製造業者を探すところからスタートしたのですが…製造と販売を別にして納豆を販売しているところ自体が少ないらしく、探すのにも一苦労でした。

そんな中、なじみのお豆腐店の三代目から「ここなら間違いないと思う」と話が舞い込みました。

それが宮城の納豆製造会社でした。

──その納豆製造会社さんと手を組んだ決め手というものはあったのでしょうか。

有田:

その納豆製造会社さんは小さい農家さんのために納豆を作っておられる会社で、知っていく中で会社の姿勢や真面目さに惹かれました
そして、小ロットでも引き受けてくれるというところ。

希少青大豆ですから、納豆にするにも使える大豆が限られています。
そうした様々な点から、この会社しかないと思い、紹介を受けることになりました。

福岡と宮城、場所は遠いですが、これはご縁以外の何物でもないと思います。

──なるほど。会社の姿勢や製造方法はなど、御社とうまくマッチしたということですね。その後の商品化までの流れをお聞きして良いですか。

有田:

作るからには、とにかく無添加にこだわりたいと考えていました。
原料としての大豆はもちろんですが、納豆に付け合わせてあるタレがありますよね。
そのタレも「無着色・無香料・保存料不使用」でこだわりました。

そして、納豆製造会社さん独自の「手盛り製法」です。
機械を使わず、人の手で一つひとつ丁寧に納豆を容器に手盛りしています。

その製法の良さは、納豆を口にした時に分かります。ふわっとした食感になるんです。

──納豆工場を構えているということですから、日々の製造数はそれなりのものだと伺えますが…一つひとつ手盛りとは驚きました。それも納豆製造会社さんのこだわりということですよね。

有田:

そうなんです。昔ながらの製法を現在も続けているというこだわりっぷりです。
納豆を美味しく食べてほしいという気持ちですよね。

──手盛りと聞くととても食べたくなる気持ちに駆られてしまいますね。2022年の12月に商品化してかまチョクでも販売を開始されているようですが。

有田:

はい。商品名は「嘉麻ひすい納豆」です。

今後も嘉麻ひすいシリーズを増やしていけたらと思いますが、まずは生枝豆・豆腐・納豆、この今ある特産品の質や価値をより高めていけるようにと考えています。

──希少青大豆シリーズですから、ぜひ株式会社かまさんには嘉麻ひすいブランドを守っていっていただきたいです。あと、こちらの納豆のおすすめの食べ方も聞いて良いですか?

有田:

意外な食べ方なんですが、わさびと良く合います
通常、納豆といえばからしを付けて食べるイメージが強いですが、嘉麻ひすい納豆はビールとの相性も抜群です。
ご飯なしで、わさびを付けた嘉麻ひすい納豆とビール
これも試してみてほしいです。クセになりますよ。

──これは良い情報をいただきました。ありがとうございます。早速夜の楽しみに買って帰ります。

3年で市長へのお披露目を達成

有田:

つい先日なんですが、嘉麻市長へ表敬訪問させていただいて、嘉麻ひすい納豆をお渡しすることができました。

──新聞等で記事は拝見させてもらっていました。市長さんもさぞ喜ばれたでしょう。

有田:

はい、とても有難いことに。

表敬訪問では、納豆商品化までの経緯と、6次産業化成功についてのご報告、そして今後の展開についてお話をさせていただきました。

3年で納豆の販売まで達成できたことに喜んでいただき、大変光栄に思いました。

──たった3年で6次産業化…言葉で言うのは簡単ですが、御社や農家さんを始め、商品開発から販売に至るまで関わってこられた方々の努力は並大抵のものではないと思います。

有田:

そうですね。たった3年ですが、その中での試行錯誤や挫折、苦悩は沢山ありました。

しかし6次産業化を達成することで、その努力が農家さんやお豆腐店さんの所得に還元されます
もちろん所得だけでなく、様々な経験や人との関わりも。

私たちにそれ以上のご褒美はないと思います。

──地元の複合施設内でも連日納豆を求めてお客さんが来られているようですね。

有田:

WEBサイトやSNSでの活動に加えて、メディアがメディアを呼ぶという形で「先日の〇〇社の記事を見ました」と取材依頼などが来るようになりました。
お陰様でかまチョクだけでなく店舗のほうの売れ行きも好調です。

また、ECサイトのかまチョクなら遠方の方も気軽に購入できるので好評で。

「東京などの都会にはないもの」と興味を持っていただいたり、「田舎でしか作れない美味しいものを手土産にできる」と大変喜ばれています。

──確かに、都会にいる人には地元のお土産など喜ばれやすいですよね。それでいて、地元の高級な特産品となれば、興味を引くのも頷けます。

有田:

離れた場所の方々にこんなに喜んでいただけるという新しい発見は、私たちも実際に高級食品の販売をし始めてから気付いたことなんです。
喜ぶのは周りにいる地元の人たちだけではないんだ、と。

住んでいる場所を問わず、そこでしか作れない美味しいものには価値があり、喜ばれると知りました。

嘉麻ひすい納豆が世界へ

──今後の展開について、ぜひ私もお聞きしたいのですが。

有田:

嘉麻ひすい大豆は誕生から3年が経ち、地元嘉麻市をはじめ、全国にもようやく認知度が広まってきたところです。

ですが嘉麻ひすいは国内だけに留まりません。
今年、嘉麻ひすい納豆をドバイで販売する計画を進めています

──え、ドバイですか!?

有田:

はい。びっくりされるかもしれませんが…。
すでに輸出に向けての冷凍実験なども行っています。

腸活ブームのような健康思考は日本だけではなく海外でも浸透し始めていて、海外のセレブ達はこうした無添加で体に良い高級食品をまさに今求めているそうです。

──しかし、海外進出とはとても思い切った決断ですね。

有田:

いえ、これも自分たちが元々計画していたものなんです。
地元特産品を越境ECで世界へ。これで成功すれば嘉麻市の農家さんたちの希望となり得ます。

海外セレブにも通用するよう、高級ギフト箱なども準備しているんですよ。

──これはすごく高級感がありますね。「Kamahisui BEANS」とありますし、海外にも通用するようにきちんと考えて作られたのですか。

有田:

そうです。納豆は海外でも「natto」という言葉で通じるそうです。
それくらい日本の納豆に対して強い関心と認知度があるんだと思います。

──今後もますます嘉麻ひすい大豆に注目が集まりますね。私も今日のお話を伺って非常に興味をそそられています。せっかくなので高級ギフト箱のほうで2箱分いただいて手土産にしようと思います。これは絶対、もらった人は喜びますよ。

有田:

ありがとうございます。

かしこまったお土産や贈答品にはかまチョクの「嘉麻ひすい納豆 1箱(ギフト箱)」が非常に喜ばれます。
味はもちろんですが、パッケージなども細かな部分にこだわって制作しましたので、一度手に取ってもらえると嬉しいです。

──最後に有田社長からみなさんへ一言お願いいたします。

有田:

高級希少な「嘉麻ひすい大豆」を栽培する、嘉麻市の農家さん自身のブランドが確立されつつあります。
しかし、たくさん作れば作るほど農作業は大変になります。
嘉麻ひすい大豆が宝石の翡翠(ひすい)のような価値になって、大量生産から少量生産へ、大変な重労働からの解放と、日本本来のものづくりの価値を農家さんの手に
微力ながら恩返しができれば幸いです。
地元嘉麻市をまた次の世代にしっかり渡していけるよう、これからも尽力いたします。

──“消滅可能性都市”と呼ばれている嘉麻市から生まれた奇跡の特産品「嘉麻ひすい大豆」。
栽培から約3年で嘉麻市の特産品として地域に根付かせ、6次産業化を達成。

今後の海外進出が嘉麻市の財政破綻の危機を救う手となり、地元の生産者さんの希望となることに期待しています。

 

嘉麻市の産直サイト「かまチョク」